管理栄養士と健康なときから出会える社会へ。共創で広がる新しい価値

 

起業や新しい挑戦を続ける人たちが集まるだいしんシェアオフィス夢はなて。
今回ご紹介するのは、企業のヘルスケア事業開発を一気通貫で支援する、株式会社My Landの住吉彩さん。「食べることが怖くなった」思春期の経験と、病院で向き合い続けた患者様たちの後悔。その原体験が、「管理栄養士と健康なときから出会える社会」を目指す原動力となっています。

 


食との距離が変わった思春期の違和感

 

——もともと食べることがお好きだったそうですね。どんなきっかけで管理栄養士を目指すことになったのでしょうか。

 

幼い頃からずっと食べることが好きでした。でも思春期になると、周りも美容やダイエットに興味を持ち始めて。気づいたら自分もカロリーを気にして、食べたくもないものを選んで…。あんなに好きだった食が、楽しめないものになっていたんです。

そして進路を意識するようになった頃、「朝バナナダイエット」が大流行して。スーパーの入口に山積みになったバナナがあっという間になくなっていく光景を見て、「情報に振り回されているのは自分だけじゃないんだ」と気がつきました。そこから、食の楽しさや大切さを正しく伝えられる人になりたい、そう思って管理栄養士を目指すことにしました。

 


「もっと早く知っていれば」と言われ続ける現場で、何もできなくなる瞬間がある

 

——管理栄養士になり住吉さんが病院に勤務されている中で、印象に残っていることはありますか。

 

1,000人以上の患者様と向き合う中で、「もっと早く食事について知っていれば」という言葉を本当にたくさん聞きました。生活習慣病や糖尿病は数値が悪化していても自覚症状が乏しいため、「今は大丈夫」と後回しにしてしまいがちです。その間にも合併症は静かに進行していくという現実を、何度も目の当たりにしました。

管理栄養士は入院患者様に食事を提供する側ではありますが、細かく刻まれたり、ミキサーにかけられた嚥下食を見たりしていると、「これって、生きているって言えるのかな」と思ってしまうことも多くて。だから、病気になってからではなく、健康なときから管理栄養士と出会える社会をつくりたい。その思いがどんどん強くなっていきました。

 

 

——その一方で、しばらく現場を離れるほどのご経験もあったそうですが、そこから起業という道を選ばれたのはどうしてでしょうか。

 

病院って、変化を好まない環境なんですよね。やりたいことがあっても動きにくい。思いが強い分だけ、かえって「管理栄養士に向いていないのかも」と感じることもありました。

かたわらで、食や健康以外でやりたいことを探すために図書館に通っていて、そこで初めて「起業」という働き方を知りました。一度は管理栄養士として働くことをやめようかと思いましたが、「これなら自分のやりたいことを形にできるかもしれない」と、当時の私にとっては、起業という働き方が希望に感じられました。

 


「共創」で変える、管理栄養士の役割と価値

 

——「共創」という言葉が印象的ですが、他のサービスとはどこが違うのでしょうか。

 

当社の事業では、それぞれ専門性の異なる管理栄養士の知見を横断的に活用できる点が特徴です。現状、管理栄養士の社会的な価値がまだ十分に評価されていないと感じることも多いんですよね。その理由として、何ができるかを企業が理解していないこと、そして管理栄養士は依頼された業務をこなす「受け身」の姿勢にあると考えています。だからこそ私たちは、これからヘルスケア事業を行いたい企業様や顧客満足度を上げるための施策を考えられている企業様の企画の段階から一緒に入って、具体的な提案ができる存在に変わっていく必要がある。その想いを込めて、「共創」という言葉を掲げています。

 

 

 

——事業をされていて、企業から最初に相談される内容はどんなものが多いですか。

 

「商品開発をしたいんだけど、管理栄養士って何をお手伝いしてくれるの?」「新規事業で健康に関わることをやりたいんだけど、何から始めればいいの?」といった相談が多いですね。管理栄養士は「食の専門家」というイメージはあるものの、具体的にどのような形で事業に関わっていくのかについては、まだ広く知られていないと感じています。

今は物があふれている時代なので差別化が難しい中、「管理栄養士が関わっている」という点は安心感や信頼につながり、購買行動にも影響する。そこに大きな価値があると思っています。

 

——「新しい管理栄養士のカタチ3.0プロジェクト」には管理栄養士以外の方もいらっしゃるそうですね。

 

理学療法士、看護師、ITエンジニア、デザイナー、マーケターなど多様な方が参加しています。例えば、育毛剤を販売している企業様と取り組んだときには、メンバーの鍼灸師にもプロジェクトに加わってもらいました。血流や体質との関係も踏まえて考えることで、商品コンセプトや伝え方にぐっと厚みが出たんです。あくまで管理栄養士がメインですが、幅広い視点から企業の課題に応えられるのが強みだと思っています。


健康を押し付けない、「自然と変わる仕組み」へ

 

——「お客様とプロジェクトを進めるにあたり、実際に管理栄養士としての「価値を発揮できた」と実感した具体的な事例はありますか。

 

サプリメントや青汁を販売している企業様と取り組んだときのことです。タレントを起用した広告やさまざまなパターンのSNS広告を展開している中に、「管理栄養士監修」「管理栄養士おすすめ」という文言を入れて私の顔写真も載せたLPを公開したところ、無名の私の顔写真にもかかわらず、なんとタレントを使った広告よりクリック率が断然よかったんです。本来の広告予算の半額ほどで目標を達成できて、売上も伸びました。

LPでよくある「管理栄養士監修」はコメントを一部に載せるだけのことが多いのですが、今回は座談会形式で話しているものをLPに仕立てました。それが信頼感につながったんだと思います。その実績がきっかけで次の仕事にもつながって、企業様にもとても喜んでいただきました。

 

——実店舗の売り場づくりでも成果があったとお聞きしました。

 

スーパーを運営する企業様と取り組んで、売り場の構成を栄養の観点から変えるという企画をしました。「健康のために」と意識して食料品を選ぶ人って実は少ないですが、売り場が変わり、置いてある商品が変わることで、お客様が自然と手に取るものも変わっていく。いわば「知らないうちに健康になっている仕組み」を売り場で実現できたんです。結果として売上にもつながりましたし、企業様にも「お客様に対して新しい価値の提供ができた」と評価いただきました。

管理栄養士の存在を前に出さなくても、裏方でちゃんと関わって、日々の食が少しずつよくなっていければいい。そういった形の支援もできることを実感した事例でした。

 

——170名以上の管理栄養士ネットワークを束ねる上で、大切にしていることは何でしょうか。そして、今後のビジョンをお聞かせください!

 

「新しい管理栄養士のカタチ3.0プロジェクト」に参画するのに厳しい審査はありませんが、「管理栄養士の新しい活躍の場として、健康なときから出会える社会にしたい」という思いへの共感を一番大事にしています。ただ登録するのではなく、一緒に開拓していこうという気持ちを持ってくれる積極的な人と展開していきたいと思っています。

メンバーとは、毎月の座談会や事業説明会、リアルのイベント、オープンチャットなどを通して、より良い関係をつくることを意識しています。医療の現場ってどうしても受け身になりがちですが、My Landでは自分から関わり方を広げていく姿勢や、提案する力を身につけていくことを大切にしています。

 

日本人は平均寿命が長いと言われていますが、健康寿命との差はとても大きいです。だからこそ、食を、ただ「お腹を満たす」ためのものではなく、人生を豊かにするツールとして届けていきたい。将来的には、「食といえばMy Land」「食のことなら管理栄養士に頼んだ方がいいよね」と自然に思ってもらえるような状態になっていたら嬉しいですね。

 

あとがき

 

今回の取材で印象的だったのは、住吉さんの「後悔」のリアルさでした。病院で何度も聞いた「もっと早く知っていれば」という声やご家族の経験が、まさに事業の原点になっています。

ただ、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかったはずです。管理栄養士の価値はまだ十分に理解されているとは言えず、関わることでどれだけ変化が生まれるのかを、言葉だけでなく結果としても示していく必要があります。実際に、価値が伝わらずに戸惑う場面や、手応えを感じにくい時期もあったと語られていました。

それでも住吉さんは、ひとつひとつの取り組みに向き合い、成果を残してきました。事例を振り返り、数字を追い、どうすれば価値が伝わるのかを考え続けるといった地道な積み重ねが、企業からの信頼や次の仕事へとつながっているのだと思います。

見えにくい価値だからこそ丁寧に。その先に、「管理栄養士と健康なときから出会える社会」が形になっていくのだと感じた取材でした。

 

(執筆:YUMEARATAセンター長 辻 和樹)

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